南魚沼市立浦佐こども園 建築の地産地消 

骨組み写真:見学会資料より

新潟県南魚沼市の浦佐のこども園の見学会(建築士会主催)に行った。昨日の長岡から上越線で約1時間くらいのところで、信濃川の支流魚野川の流域の町である。魚沼というとご承知の通りコシヒカリが有名な農村であるが、新幹線がとまる駅でもある。ブレットトレインをとめたヒーローが角栄さんで駅前には彼の銅像がドドーンとたっている。雪避けの傘までかけられている銅像はあまりない。

この園舎は南魚沼市が、乳幼児から小学生までの一環した情操教育を目的に建設したもので、コンペ形式でこの案が選ばれた。中庭を囲むシンプルなドーナッツ型をした建物である。コンペの設計条件には、地元の学校林の越後杉を使用すること、ペレット冷暖房とすることなどがあった。建築の地産池消である。国は今年公共建築物等木材利用促進法を施工し、学校や庁舎などの建築の木造化と国産材の利用の推進を始めた。その主な目的の一つは、戦後日本全国に建築材として植えた杉がいっせいに伐採の時期を向かえているからだ。(水田をいっぱい作って、余っている現状と似ている。)しかし日本の林業の現状は悲惨である。安い外国産に押されてほとんど市場に出せない。切って市場に出しても原木が大根のような値段になってしまう。要するに山の維持費だけかかる。切らなくなると伐採や製材に関わる人がますますいなくなる、すなわち林業をやっていくための経費だけどんどん高くなっていく。今ではアレルギーの原因だから落葉樹を植えろなどと勝手なことまで言われる。山をもてなくなるとついには正体不明の外国人の投資家に売り渡される、社会問題である。

材木の価格が暴落した一因は、材木の価値を判断できる大工さんがいなくなってしまったのが大きいとのこと。もちろん家を作る職人はまだまだいるが、「適材適所」の骨組みをつくる在来工法の大工さんはもうほとんどいない。

鳥瞰パース:パンフレット資料より

国の基準では、柱や梁の接合部に金物を使わない在来工法を違法とする。本当は在来工法は素晴らしい耐震構造、すなわち柔構造をしているのだが、それを科学的に評価できないという理由である。宮大工西岡常一の法隆寺の骨組みは、見事に既存不適格となってしまう。基準法では建物は柱梁を金物と筋交と合板でがちがちに固める。(一見強そうだが崩壊するといっきにバタンと倒れるので、そうならないようになおさらがちがちに硬くしていき、地震力の逃げ場がなくなる。)大雑把に追うと、十把一絡げの耐震基準によって、在来工法は違法になり、大工さんがいなくなり、伝統の木造在来工法は廃れ、原木はすべて太さや重量という物理量だけで判断されてしまい、そうすると同じ杉でも一本一本の木の性格にこだわった日本の繊細な林業が途絶え、ついには農村の風景や社会が崩壊するという流れである。たとえば本来家一棟建てると地域経済にさまざまな活力をもたらした。循環型の地域の程よい経済単位としての産業である。しかし現在では普通に木造の家を建てると、地元の小さな工務店や材木屋さんにはお金は落ちずに、ほぼ100%外国からの輸入材で建つ。生物多様性がさかんに叫ばれているが、大雑把に説明すると外国産材を使うことは、世界の熱帯林の減少に大いに貢献してしまうのである。

国の進める公共建築の木造には特殊な木造の工法が必要になる。この建物はKES工法と言ってやはり特許をとった特別な構造になっている。特許は良い面もあるが、技術の普及という面では制約がある。ノーベル賞の鈴木さんのクロスカップリング反応は特許をとらなかったので広く世の中に普及し役に立ったという。競って特許をとった米国の化学者はじぶんの発明が社会で使われないことを嘆く。話を元に戻す。基本的に柱梁はすべて工場で生産される。集成材といって糊によって大きな断面の部材をつくり、コンピューター管理で部材をカットしてく。さらに接合部の金物を取り付けるとこまで工場で行う。だから現場ではクレーンで組み立てるだけである。鉄骨造と同じ。大工さんがいなくなるというのはこういうことである。写真はその骨組。南面の遊戯室でもっとも天井が高くスパンが飛んでいる。杉材はあまり強くない、雪国の積雪に耐えなければならない、だから部材がかなりごっつくなる。これは100%地元の杉を使うという方針の徹底である。だから確信的に適材適所にあえてしていない。ちなみに上写真の右端に映っている人が設計者の種村俊夫さん。

中庭はこんな感じ。足場が組まれていてまだ雰囲気は分からない。実際構造材もかなり隠れるところもあるそうで、完成すると空間の印象はぜんぜん違うだろう。それと木造の大規模建築は1000㎡までという基準があり、この建物は約2000㎡あり、空間的にはぐるりとつながっているが、法規上は木造部分と耐火構造部分に巧妙に分けている。それと乳幼児が入る施設は福祉施設となり内装制限がかかり、幼稚園だけならもっと室内に木を使えるのだがと種村さんは不満をもらす。

外壁も一部越後杉が使われている。説明によると節や色むらが目立ち、本来仕上げ材としてはあまり好まれない材料だそうである。でもそれは表現として割り切れば良い。

屋根はやっぱり鋼板。緩勾配なので難しいが地場の瓦とか使うと景観に馴染みもっと良いと思うのだが。重量や予算の問題ですね。それと床や壁の下地の合板はどうしても外国産。途上国の森林の破壊は実は合板がもっとも寄与していると言われる。100%地産池消の建築の実現は本当に難しい。それとぼくの意見は、本当は木材の乾燥は昔のように自然乾燥にすべきで、そうすれば環境に負荷がかからないはず。しかし自然乾燥にするためには、2009年に学校林を伐採しているようだと間に合わない。林業はライフロングサイクルで考えないと成立しない。たとえばドイツの林業は前の世代の植えた太い木を切って次世代が食っていく、当たり前のこと。

最後の写真は魚野川。対岸に八色公園が広がりその中に見学したこども園がある。川の近くだが、地盤は少し掘るとごつごつした岩ありでボーリングできないほどめちゃくちゃ強いそうである。向こうの山は日本酒の銘柄で有名な八海山。天地人で妻夫木聡がたっていた山、あれはCGではなく実写だそうです。

新野裕之

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