東京暗渠アーバニズム 1  谷中「よみせ通り」&「へび道」

東京暗渠道

ブラタモリじゃないけれど、東京には川や運河を埋め立てた跡、つまり「暗渠」が多く存在する。そしてしばしば暗渠は不思議と人々が集まる魅力的な通りに変容している。これから何回かに分け、川の神様が眠る東京の暗渠について紹介したい。それではさっそく「谷中」を歩いてみましょう。


[Map1] 谷根千の低地の中央を流れていた旧藍染川   千代田線が地下を走る春日通りと平行に流れる。東が谷中墓地の高台、西側が本郷台地に挟まれた谷である。現在は「よみせ通り」「へび道」、歩行者や自転車が主人公の生活動線。アクセスは千代田線の根津または千駄木が便利。山の上からはJR上野駅や日暮里から。グーグルマップより加工。(地図データ ©2020 Google)

 

谷根千

谷中は様々な旅番組や雑誌などにたびたび取り上げられる人気の界隈である。とくに台東区と文京区にまたがる広範な地域を谷根千(谷中、根津、千駄木)と呼び、日本の新しい「小さな」都市文化の発信地として存在感が高まっている。谷中は多くの寺と墓地が点在する寺町。特に徳川将軍家の墓がある広大な谷中墓地が名所だが、すぐ隣には東京芸術大学や東京大学本郷キャンパスなどもあり、古くから学生や大学教授や芸術家などが住む文化の町でもある。奇跡的に空襲から免れたおかげで、今でも古い家屋や路地が多く残り、この界隈の最大の魅力である。最近ではこうした日本のオーセンティックでクールな下町の風景を求め、外国人の観光客も好んで訪れる。古い木造の町家や家屋もリノベーションされ、カフェやギャラリー、Airbnb対応の宿などに生まれ変わりつつある。上野桜木の交差点を入ると、「旧吉田屋酒店」、「カヤバ珈琲」、銭湯をギャラリーにコンバージョンした「スカイザバスハウス」、袋小路の長屋を商業キャンパスに再整備した「あたり[Photo1]」など、明治から昭和時代の再活用された建物が集中する。上野公園から歩いてすぐの場所である。


[Photo1]「あたり」   ビアホール、ベーカリーなどの飲食店や展示などに対応する貸スペースから構成される複合商業施設。袋小路に入ると長屋の家々に囲まれた昭和の別世界に没入できる。

 

谷中=低地=下町

谷中という地名の由来は、「谷の中」であるように、谷中墓地の高台ではなく、西は本郷台地、東は谷中の高台に挟まれた谷地、すなわち低地=下町であると考える。その低地=下町の中心を流れていたのが藍染川である。藍染川は上流の豊島区の旧上駒込村の長池から上野の不忍の池まで南北に流れていた[Map1]。 藍染川と名付けられたように、かつてこの川のほとりでは染物が盛んであった。有名な「谷中ぎんざ」は、藍染川沿いの下町から谷中の高台を東西につなげる坂道であり参道である。


[Photo2]「谷中ぎんざ」   観光客向けの小さな店が多く建ち並ぶ。道幅は3~4M程度の路地で、いつ訪れても歩行者天国のような賑わいのある人気の観光スポット。ここから坂を登って行くとすぐに谷中墓地に着く。

 

よみせ通り

谷中墓地の高台から「谷中ぎんざ」を通り抜けると、辻に到着する[Photo2]。そこから左すなわち南方向に下る商店街が「よみせ通り」である。こちらは八百屋、魚屋、「スーパー」(昭和の商店街の「スーパー」は適度に小さい)、コンビニ、雑居ビルなどが並ぶ地元住民の日常の生活空間としてのどこにでもあるような商店街である。このような「ママチャリ」自転車で買い物に行ける人間的な普通の風景が東京のど真ん中に残っている。


[Photo3]「よみせ通り」   「よみせ通り」は、魚屋や八百屋や「スーパー」などが建ち並ぶリアルな下町の商店街。地元の人たちの日常の生活を支える。

 

へび道

さらに暗渠を南(上野方向)に歩き続けよう。「よみせ通り」の商店街を抜けると「へび道」と呼ばれるくねくね曲がった道に出る。迷路のような細い道とブロック塀や生垣の家並みはちょっとした風情があり、これぞ暗渠といった道である! けれどもこちらは静かな住宅街、迷惑がかからないように歩きましょう。「へび道」沿いも、だんだんリノベしたお洒落な店が並び始めている。先日たまたまラジオで聞いた情報であるが、初代「金八先生」に出ていた女優の川上麻衣子さん自らが製作したガラス作品とスウエーデンの小物を扱う店が、この辺りにあるそうである。さて、へび道の「くねくね」を通りすぎると、道は少し広くなりまっすぐになる。店舗や住宅やビルや駐車場などが入り混じったある意味「普通の」町並になる。言問通り(ことといどおり)を抜けてさらに進むと、また路地的な雰囲気に戻り、石蔵を発見する[Photo4]。石蔵の外観を維持したまま、中をうどん屋に改築した建物で、隈研吾デザインである。一度はここで食べてみたいのだが、先日友人たちを谷中を案内した際に訪れたが、平日の夕方であったが予約一杯で、またもやダメだった。2~3年前ランチで寄った時は定休日。3度目の正直でいつかリベンジしようと思うが、その代わりに双子の姉妹が切り盛りする蕎麦屋を見つけた。やっぱりちょっと一杯やるには蕎麦の方がちょうど良い。ということで、谷中を訪れたら高台の寺町や「谷中ぎんざ」だけでなく、ぜひ旧藍染川の暗渠道を歩いて、「生きた下町」の雰囲気を体験してください!


[Photo4]「釜竹」   石蔵を改装したうどん屋。裏に庭がある。かつての日本橋のように、蔵が建ち並んでいた川沿いの風景の名残。

 

新野裕之 2020.10.25

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