最新グラボRTXの威力2

NVIDIA GeForce RTX3060

前回のブログで紹介したRTXが搭載されたノートPC<P君>の性能が格段に向上したおかげで、事務所の机の下に鎮座しているデスクトップ<D君>では仕事にならなくなってきてしまった。筆者は2DCADも外部参照をバリバリ活用するので、このグラフィックの差が大きい。いったん早い<P君>で描いた図面を<D君>上で作業すると、<P君>では要ら無い描画時間を我慢しなければならない。フリーズしているわけではないが、5秒とか10秒とか多い時は30秒などと我慢を強いられる。レンダリングのように最初から時間がかかると分かっているものは、いったん作業を止めてネットしたりして待てば良いが、CADの描画作業の度に中途半端なポーズが頻繁に発生すると極端に作業効率が下がる。ということで近い将来に買い替えを検討していた10年選手<D君>のグラボをハイスペックのRTXに「つなぎ」で交換することにした。近々Windows10のサポートが終わるので、新しく買い替えてからと考えていたが、目の前の仕事を乗り切るための必要経費である。<D君>を買い替えた時にGPUを引っ越せば良い。アマゾンでRTX3060 (VRAM 12GB) が5万を切っており、もはや買い時である【写真01】。


【写真01】MSI GeForce RTX 3060 VENTUS 2X 12G OC GPU VD7553 アマゾンより

交換前のグラボはGeforce GTX750Ti (VRAM 2GB)で当時2万弱で購入した【写真02】。価格は倍だが、性能の差は倍倍倍。取り外したGTXはだいぶ埃をかぶっているが、10年故障も無く計算し続けてくれました。お疲れ様でした。


【写真02】Geforce GTX750Ti (VRAM 2GB)

GPU補助電源

しかしRTX3060を開封すると補助電源が必要なことが判明【写真03】。


【写真03】8ピンの補助電源コネクタ

シングルファンのGTXは補助電源が無かったのだが、さすがにデュアルファンともなるとマザーボードからの供給電源だけではパワー不足ということ。しかし<D君>を開けてもどこにも8ピンのコネクタケーブルは見当たらない。余っているのはハードドライブ用のSATAケーブルのみであった【写真04】。


【写真04】SATA補助電源メスコネクタ

SATAから8ピン

そこでGPU用補助電源変換ケーブルが必要となる。10年前にGTXに交換し、PCが直ぐに落ちるようになってしまったので、アキバの自作パソコンショップのお兄さんに相談した所「電源ユニットを交換する必要があるよ」とアドバイスされ、指示通りの製品を購入し交換したおかげで、電源そのものはまだ余裕があるはず、あとはSATAを8ピンに変換するコネクタがあれば大丈夫と踏む。で「SATAから8ピン」でググると簡単に発見できる。<D君>のSATAの予備は、SSDを付けて、今ではほとんど使っていない遅くて役立たずだった3.5インチのハードディスクの電源を抜けば、2つ余っているので、念のためシングルタイプではなく、デュアルで電源を送るタイプのものを付けることにした【写真05】。


【写真05】15ピンSATAオス→8ピンメスPCI-E PCI Express 電源アダプタケーブル ブランド:Fosa アマゾンより

ぎゅうぎゅうづめ

さあ、いよいよ交換作業である。MicroATXマザボのミニタワーの箱は、シングルファンのGTXを挿してもスカスカであったが【写真07】、一方デュアルファンのグラボは倍でかい【写真06】。シングルファンのRTX3060もあるが価格が少し上がるし、普及している製品を選んだ方が無難であろう。


【写真06】左GTX750Ti 右RTX3060


【写真07】補助電源の必要の無いシングルファンの小型グラボ

RAMのソケットの爪や、その他ケーブル類への干渉を気にしながらのヒヤヒヤの取り付け作業。なんとかいったん取り付けたが、ケーブルが下に挟まっているので、もう一度付け直したりしながら、なんとかグサッとPCI Express x16コネクターにデュアルファンのグラボを挿し込む【写真08】。「おっかなびっくり」の初心者は緩くつけて、もう一度箱を開け挿し直しすることになる。(もちろん壊さない程度に)思い切ってしっかりスロットに挿し切ることが大切。またスロットが横に長いので真っすぐ付けないとサイドが浮いてしまうのでその点も注意くださいね。拡張スロットのカバーを固定するラッチは、カッコ良いがちょっと大きいブラックの保護ジャケットの角に引っかかってしまい、カチッと閉まらないが、PCIスロットにはちゃんと挿さって固定されているので、普通に使っていればまず外れることはない。ちょっと気持ち悪いが、まあ良しとしましょう。


【写真08】

ここまでできれば一安心。後は前述の補助電源ケーブルを接続するだけ。デュアルなのでSATA2本をグラボの8ピンに接続【写真09】。


【写真09】グラボの8ピンにSATA電源をダブルで接続

DVIからDisplayPort

10年選手のGTXのディスプレイ端子はDVI。(正確にはデュアルリンクDVIが2つ、Mini-HDMIが1つ)。いっぽうRTXの端子はDisplayPortとHDMIであり、もはやDVIなど見当たらない。またRTXのディスプレイ端子の数は、DisplayPortが3つ、HDMIが1つなので、クアッドモニタも可能【写真10】。4つも並べるとまるで投資家のパソコンみたい。当時少々奮発して購入した事務所の液晶ディスプレイはDELLの27インチ(Dell-U2713HM)。ちょっと前のモデルだが、インターフェースはDVI、VGA、HDMI、DisplayPortまでフルスペックなのでどんなグラボを付けても大丈夫。


【写真10】RTXのディスプレイ端子。DisplayPortが3つ、HDMIが1つ。埃が被らないように、使わない端子はカバーをつけたままにしておこう。

新しく購入したDisplayPortケーブルをDell-U2713HMに接続し、いよいよ<D君>を起動。あれ、、、画面が真っ暗である。。グラボがうまく作動していないかと、冷や汗をかきながら、もう一度<D君>を起動すると、起動音はするがやはり画面が真っ暗。。。 あ、モニタ画面を見るとDVI接続が無いと警告している。そこでモニタ前面の操作ボタンを押すと、インプットを切り替えることができるようになっていた。もちろんタッチパネルじゃないので、画面を触っても反応しないので、ボタンを押す。DVIからDisplayPortに切り替えることができた!【写真11】


【写真11】モニタのフロントボタンでインプットの切替

このモニタの設定を完了すると、、、ついに画面が表示されました【写真12】。良かった良かった。


【写真12】

試しにLumionを起動すると、自動的にベンチマークが実行されて、ギリギリだった評価値がほとんど振り切れました【写真13】。ということでカクカク動いていた大きくて重たいプロジェクトもスムースに動くように。10年前のパソコンでもCPUは十分性能良いんです。


【写真13】Lumion9.5のベンチマーク画面

そして、入れ子入れ子の外部参照で大きくなり過ぎたDWGデータの描画も、ごっつ早くなったとさ。

さあ明日から本格的にバリバリ図面描きましょう!

230629 HN

追記:AutoCADの再描画の設定はデフォルトでは自動になっているので、大きなファイルで困っている場合は、切っておく(REGENMODEを1から0に)と良いそうです。もちろん表示の確認には自分でREGENする必要がありますけど。

最新グラボRTXの威力

NVIDIA GeForce RTX

先日ノートパソコンを購入した。8年選手のノートパソコン(以下M君)はまだまだ元気なのだが、最近ノートPCを持ち歩く機会が多くなったことや、モバイルPCでもBIMやVRソフトをバリバリ動かすことの出来るグラボを搭載した高スペックノートを見つけて思わずポチっとしまった。そろそろOSのアップデートも考えなければならないタイミングでもある。最初に結論を言うと、良い買い物ができたと思う。


[写真1]MSI Prestige-14 (P君)
3DCGがサクサク動く。難点は、計算をがんばり出すと少々うるさいこと。こればかりは構造上どうしようもない。出先でファンが回り出したら「グラボが一所懸命計算しているところです」とエクスキューズする必要有るかも。メールやweb程度の通常作業なら基本的に回らないのであまり心配せずに。

 

グラボ、グラフィックボード、グラフィックカード、グラフィックス、GPU(Graphics Processing Unit)と様々な呼び方があるが、グラボと言えば、ゲームの世界の高スペックなパソコンが第一に思い浮かぶ。キャラクターがかくかく動いているようでは、ボスキャラに太刀打ちできないというわけ。もちろん、我々の建築の分野を含め、ゲームや映画制作や様々なクリエーターの為の3DCGソフトや、昨今では金融の世界のAIソフトなど、多岐に及んだ領域で、高性能なGPUの画像処理性能が不可欠になってきている。システムは良く分からないが、CPUだけの性能に頼るのではなく、両者のタッグによって全体的な演算能力が向上するということらしい。筆者が所有する10年選手のB社のデスクトップワークステーション(以下D君)にGeForce GTX 750 Ti 2GBを据え付けた。当時はネットで2~3万円程度で購入できた。最新のGeForce RTXシリーズは最低でも7万円くらい。性能の向上以上に、需要過多による供給不足の為の価格の高止まりと考えられる。メタバースでますますグラボ獲得競争だ。

 

一方、D君の少し年下のノートパソコンM君も、モバイルワークステーションと呼ばれるラップトップで、Core™ i7-5600U、AMD FirePro M4150、PCIe-SSD と悪く無い。例えばREVITの標準的作業には基本OK。けれどもSSDの容量が256GBしか無いのが悩みの種であった。当時はPCIeのSSDなど高嶺の花。またストレージに余裕があったとしても、GPUの性能を考えるとLUMIONをインストールするのはちょっと無理がある。


[写真2] M君、8年選手。PCIe-SSDストレージのモバイルワークステーション

 

そこで今回の買い替えの目的は2つ。『①ノートPCでRTXグラボ』、『②ポータブルな14インチゲーマーの使うモバイルWSはデカいのが多いが(15インチ以上が標準的)、M君と同じ14インチに絞る。これ以上小さい画面だと、BIM/CAD作業が困難。もちろんRTX内蔵のノートPCは価格が跳ね上がる。M君を22~23万で買ったので、可能ならば同程度の金額で購入したい。円安の状況で難しいかなと思いながらも、RTXを載せたノートPCの品ぞろえが豊富でさらにコストパフォーマンスの良いMSIを見つける。MSIはゲーミングPCを得意とした台湾のメーカー。今や台湾は半導体の巨大生産拠点。他社の製品も色々迷ったが、探していた「RTX」「14インチ」「Windows 11 pro」 の条件が揃ったMSI Prestige-14に軍配が上がった。P君と命名。


MSI公式オンラインショップの製品写真より
[写真2] MSI Prestige-14
ゲーマー&クリエーター向けの製品を主体としたMSIのラインアップの中でも、ビジネス用途をうたったコンパクトなハイスペックモバイル。スペック的にはゲーマー&クリエーター向けの製品と変わらない。公式ページから直接購入可。

< M君> 8年選手 < P君> ルーキー
ディスプレイ 14インチ 14インチ
寸法 339 × 237 × 21mm 319×219×15.9mm
重量 約1.7kg 1.29kg
CPU Core™ i7-5600U Core i7-1280P
SSD 256GB 1TB
RAM 8GB 32GB

[表1] モバイルワークステーション新旧比較

 

ということで、M君とP君の能力の差は説明するまでも無い。ただしこの薄さと軽さのトレードオフはどこにあるかというと、拡張/接続性にある。旧世代のM君には親切にUSBやディスプレイなどの拡張端子が豊富に装備されていた。一方、P君にはThunderbolt 4 Type-Cというオジサンには見慣れない小さな端子が2つ、USB端子は1つしかない。なのでM君の使い方と同じように、拡張ディスプレイやLANに接続するためには、専用の変換ハブが必要となる。MacBook やSurfaceなどの今日日のスタイリッシュなラップトップを買うと、ドッキングステーションという様々な変換ハブを購入する羽目になるというわけ。筆者はLANとDVIをつなぐためのDST-C10というエレコムの製品を5000円で購入。ドッキングステーションも機能を欲張り過ぎると、軽く1万を超えてしまう。箱を開けてLANや外部モニタが接続できるかドキドキだったが、問題なく機能。最新のThunderbolt 4は互換性が高く、速度も極めて高いとのこと。Thunderbolt 4端子の外付SSDなどは非常に高速な転送能力があるらしい。ちなみにバッテリーの接続もThunderbolt 4端子が担う。なんでも接続できるので「万能端子」と呼ぶらしい。


[写真3] ドッキングステーション(エレコム、DST-C10BK)

GPUの新旧対決、GTX vs RTX

事務所に鎮座する10年選手のWS、D君と比べても、今回購入したP君は最新グラボGeForce RTX 3050の威力で、BIMやVRソフトを動かす性能が格段に向上した。


[写真4] 10年選手D君。机の下で埃を被っているが、Core-i7の搭載のデスクトップワークステーション。GeForce GTX 750 Ti 2GBを実装したおかげで電源ユニットも交換する羽目になった。

 

調子に乗って家具ファミリを入れ過ぎてしまい、コンペ提出前に急に動きが悪くなり苦戦したBIMモデル。ルーキーP君で開くとサクサク動く。試しに7680×4320のポスターサイズでD君(デスクトップ)とP君でレンダリング速度を比較してみると、以下のような結果となった。


[写真5] レンダリング時間比較、解像度7680×4320

< D君>10年選手WS < P君>ルーキーモバイルWS
CPU Core(TM) i7-4770 CPU @ 3.40GHz 第4世代 Core i7-1280P @ 4.80 GHz 第12世代
SSD SATA SSD 500GB PCIe SSD 1TB
RAM 16GB 32GB
GPU GeForce GTX 750 Ti 2GB Geforce RTX 3050 Laptop 4GB
レンダリング時間 10分35秒 36秒

[表2] レンダリング速度、新旧比較

 

ということで、P君の圧倒的な勝利。ネットのベンチマークの情報によれば、Core-i7のCPUは第4世代も第12世代もそれほど大差は無さそうで、D君のRAMやビデオメモリの不足の問題や、SATA-SSDとPCIe-SSDの転送速度の差も少なくないが、このレンダリング時間の差の最も大きな要因は、グラボの演算能力の差と予想する。BIMやVRソフトだけでなく、2D-CADの描画能力の高さも極めて良い。外部参照を使いまくる筆者には、CADの作業性の大幅向上にも大満足。もう”デスクトップ”ワークステーションは要らなくなる?

建築デザイナーの皆さん、PCの買い替えには、ぜひグラボの良いものを選んでくださいね。

★追記 230412
最近、Lumion 9 から、永久ライセンスの最終版のLumion 12にバージョンアップしたのですが、< P君>のLumion 12のベンチマークは37%まで大きく下がってしまいました。GPU“Geforce RTX 3050 Laptop 4GB”が“最小”評価の為です。特にGPUメモリは6GB以上が要求されています。高解像度の4Kなどで、バリバリにVRソフトを動かしたい“強者”は、GPUをもう一段性能の良いWSを検討ください。

HN

時間のある方は以下動画もご覧ください。2分21秒↓

 

 

変幻自在(?)に階段の手摺をデザインする, Revitのアダプティブコンポーネント

悩ましい階段の手摺

Revitのモデリングで厄介なのは手摺である。とくに階段の手摺、さらに手摺子がガラスパネルなどになったりするとより悩ましい。まず下の階段の手摺の例でその「悩ましさ」を見てみよう。これは一般的な横桟の手摺(建築テンプレートの「900mm パイプ」)である<図01>。この横桟をブラケット付きのガラスパネルに交換する。


<図01>横桟の手摺「900mm パイプ」

ガラスパネルの手摺子はRevitのライブラリーにインストールされている。アメリカ人のRevit用語は不思議な日本語なので見つけるのが大変である。このファミリ「手摺子パネル – ブラケット付ガラス.rfa」をプロジェクトにロードしておく。

C:/ProgramData/Autodesk/RVT 20xx/Libraries/Japan/手摺横桟/手摺子/手摺子パネル – ブラケット付ガラス.rfa

つぎにパネルを割り付ける。横桟手摺(「900mm パイプ」)を複製し、「ガラスパネルブラケット付」などと名前を変える。次にちょっとややこしい手摺子の設定<図02>。


<図02>「手摺子構成」設定画面

「主パターン」設定の「手摺子ファミリ」を「手摺子パネル -ブラケット付ガラス:600±25mm」、「手摺子– 丸型:20mm」、「直前部材からの距離」をそれぞれ「310」にする。600はパネル幅。パネルも幅のある手摺子(Baluster)という考え方である。配置間隔はパネル幅が600なのでその半分の300。手摺子の径が20Φなのでスパンは半径分を足して「310」とする。「直前部材からの距離」がスパンの半分となることは、図示すると理解できる<図03a>。

<図03a>直前部材からの距離

始端と終端とコーナーの手摺子は「手摺子– 丸型:20mm」に変えておく。手摺横桟は「手摺横桟構成」の設定画面ですべて削除する。手摺横桟を全て削除しても一番上の手摺(笠木)は残る。手摺(Handrail)は一番上の手掛け部分(Top Rail)のことで「笠木」と訳されている。少々分かり難いので<図03b>でRevitの手摺の構成要素と用語を整理しておく。

<図03b>Revit手摺の構成要素と用語

この設定で、アウトプットは<図04>のようになる。端部にパネルが割り付けられずにギャップができている。横桟の場合は手摺子まで自動的に延長されるが、600の決まった幅パネルなので余りの部分は割り当てられない。


<図04>端部にギャップができる

とりあえずこのギャップを埋めるにはもう一度「手摺子構成」の「位置合わせ」で「フィットするように拡げる」にする<図05>。


<図05>「手摺子構成」「位置合わせ」「フィットするように拡げる」

これで一応ギャップは埋められるのだが、よく見るとブラケットが重なったりしており破綻している<図06>。残念ながらパネル幅は自由に追従しない。


<図06>割り付けがうまくいかない

この方法でガラスパネルをきれいに割り付けるためには、スパンごとにタイプを作成する必要がある。階段部分だけでなく踊り場部分など様々なコンディションがある。例えば階段部分のスパンが2100の場合、3分割し700のパネルを作るのだが、正確には手摺子の直径分のスパンを差分した「手摺子パネル – ブラケット付ガラス:680」を作る。このようにコツコツとパネルと手摺タイプのバリエーションを作っていけば、破綻しないように手摺子パネルと手摺子支柱を割り付けることができるのだが、ここまで説明するとすでにお分かりのように、さまざまな幅Wの「手摺子パネル – ブラケット付ガラス:W」を作成しなくてはならない。スパンが2700と2697の3mm違いでもメンバーが変わる。階段の手摺ではそういう微妙な違いが多々生じてしまう。例えば上のL型階段の場合、以下のコンディションごとに異なる寸法が発生する。

■1階から踊り場までの階段部:(a)外側手摺 (b)内側手摺
■踊り場:(c)外側の手摺 (d)内側の手摺(接合部)
■踊り場から2階までの階段部:(e)外側手摺 (f) 内側の手摺

といった具合である。うまく計画すれば(a)と(b)、(e)と(f)は同じものにでき、(d)は無くすことができるが、実際の設計の現場ではそうは問屋が卸さない。とくに日本の一般的な住宅のようにスペース限られている場合はなおさらである。

もっとスマートな解決策は無いか? 1つのファミリタイプだけですべて作成できないか? その為にはパネル幅が様々なスパンに自由に追従する変幻自在な手摺子パネルを作成する必要がある。そう「アダプティブコンポーネント」の出番である!

変幻自在? アダプティブな手摺

アダプティブ標準手摺ファミリーの作成

それでは寸法が様々なスパンに追従する手摺子ファミリ、アダプティブコンポーネントを作成してみよう。テンプレートは「一般モデル(メートル単位)、アダプティブ.rft」を使う。ここで作成するのは、以下の2種類の手摺子。<図07>が基本ユニットの「アダプティブ標準手摺」で、青い2点が「配置ポイント1」「配置ポイント2」である。水平面でも斜面にも自由に追従可能なアダプティブな配置点である。端部の「配置ポイント2」が開いているが、「アダプティブ標準手摺」を連続して繰り返し配置し、閉じるときは<図08>の手摺子支柱「アダプティブ端部手摺」を配置し終点とする。


<図07>「アダプティブ標準手摺」親ファミリ


<図08>「アダプティブ端部手摺」親ファミリ

「アダプティブ標準手摺」の中で、「配置点1」上に手摺子(支柱)のフォームだけを直接作成し、トップレールの「手摺(笠木)<図09>」と「ガラスパネル<図10>」の子ファミリはネスト/ロードさせている。子ファミリのガラスパネルには、さらに孫ファミリの「ブラケット」が入っている<図11>。


<図09>「手摺(笠木)」子ファミリ


<図10>「ガラスパネル」子ファミリ


<図11>「ブラケット」孫ファミリ

もちろん、手摺の高さ、手摺笠木の径、手摺子支柱の径、パネルと上下左右のギャップ、ガラスの厚さ、ブラケットのサイズ、各要素のマテリアルはすべてパラメ化し、ロードしたプロジェクトの中ですべて調整できるようにする。当初は「標準手摺」の中で手摺笠木からガラスパネルまですべて作成しようと試みたが、子ファミリとして分岐させて親にとり込んだ方が作成しやすく、またパラメーターも整理されコントロールしやすい。親子孫の相関は<図12>。※手摺子支柱は親の中で作成しているが、手摺(笠木)と同様に子供として取り込んでも良い。

★親「アダプティブ標準手摺」
☆子「手摺(笠木)」
☆子「ガラスパネル」
☆☆孫「ブラケット」
★親「アダプティブ端部手摺」

<図12>親子孫の相関

手摺の配置点の作成

ここからはこのアダプティブ手摺の設置である。アダプティブ手摺を配置するには、<図13>のように階段上に参照線と配置点をつくる。この作図は「インプレイスマス」の中で行う。現場打ちコンクリートのことをCast-In-Place Concreteと言うが、インプレイスとは工場での規格品の大量生産ではなく、現場に応じた工事というニュアンスである。


<図13>手摺の配置点の作図

効率良く行うには手摺の配置面に参照面を作成し、参照面には「階段1外」「階段1内」「階段2外」「階段2内」などと名前を付けておき、断面図で参照面(作図面)を選択できるようにしておく<図14>。


<図14>作図準備(参照面の作成)

例えば断面図1の外側の手摺の配置点の作図では、まず作業面となる「階段1外」の参照面を有効にし、<図15>のように参照線を作成し「パスを分割」で等分割してアダプティブポイントを生成する。


<図15>参照線の作図と「パスの分割」

ここでは3等分すると踏面に支柱がうまくのっかる。3等分の場合は、配置点は植木算で両端を含み4点となる<図16>。分割数は変更可能である。パスを分割する必要の無い場合、つまり両端だけの配置点の場合は2点となる。


<図16>3等分の場合配置点は両端を含み「4」

これを踊り場と2階まで作成する。この参照線と分割点はインプレイスマスの中で作成する。これで準備が完了である<図13>。ここでは外側手摺だけでご容赦を。

※パスの分割は均等に分割することしかできない。均等分割でうまく割り付けられないときは1本の連続した参照線を2本や3本に分けて作図するか、パスの分割ではなく参照線の上に点を配置する方法もある。参照線の上には制御点が自由に配置でき、その制御点にアダプティブ手摺を配置することができる。

アダプティブ手摺の設置

最後にこの配置点に配置するには、プロジェクトにロードした「アダプティブ標準手摺」をプロジェクトブラウザからグーっと3Dビューにドラックすると出てくるので、最初の点と次の点にクリックしていくと設置できる<図17>。斜めでも水平でも設置可能な点が、アダプティブファミリーの優れた所である。アダプティブファミリーのカテゴリーは初期設定では「一般」なのでロードするときにタイプを「手摺」とする。カテゴリーを「手摺」にしておかないと、手摺ファミリーのブラウザのリストに出てこないので注意。(その場合「一般」の中に隠れている。)


<図17>ファミリブラウザからドラッグしてくる

これを一つ一つ配置しても良いのだが、インプレイスマスの中では繰り返しコピーといコマンドがあるので便利<図18>。残りの配置点に自動的に配置してくれる。


<図18>繰り返しコピー

この作業を踊り場、踊り場から2階までを行い、最後の端部は「アダプティブ端部手摺」で終了させる<図19>。


<図19>手摺終端「アダプティブ端部手摺」

完成は<図20>となる。パスの作図は少々面倒だが、階段のデザインなのでこのくらいの労力は最低限である。


<図20>L型階段の踏面に配置したアダプティブ手摺

注意したいのはアダプティブ手摺をインプレイスマスの中で配置すると、マスが非表示になっていると手摺を選択してもロックされた状態となり、タイププロパティのパラメーターを調整できないこと。マスを表示させて参照線と分割点と手摺の入ったインプレイスを選択し「インプレイスの編集」でインプレイスの中に入ると、せっかく設定した手摺の高さなどのパラメーターを調整することができる<図21>。


<図21>手摺はインプレイスマスの中に入っている

インプレイスマスの中に手摺を配置したが、配置点だけインプレイスの中で作成し、手摺はインプレイスの中に配置せずに直接プロジェクト上に設置することも可能。この場合繰り返しコピーが使えないだけで、このくらいの数の手摺パネルであればインプレイスの中に入れて作業する必要性は特にありませんね。

210410 HN